เข้าสู่ระบบ目が覚めると、キッチンからは香ばしいパンの焼ける匂いが既に漂って来ていた。カリナはベッドから出ると、洗顔などの朝の準備を済ませてからキッチンへと向かった。
「おはよう、今日も早いな」
「おはようございます、カリナ様。もうすぐ準備ができますのでテーブルに着いておいて下さい」
ルナフレアはてきぱきと朝食の準備を終えると、テーブルには厚切りのトーストやカリカリに焼かれたベーコン、半熟の目玉焼き、そして彩り豊かなサラダが並べられた。
「やはりルナフレアの料理は美味いなぁ」
「まあ、こんな質素なお食事で喜んでもらえるなんて嬉しいです」
ルナフレアは謙遜しながらも、嬉しそうに微笑んだ。
朝食を食べ終わると、カリナの着替えをルナフレアが手伝ってくれた。昨日着せられた、あの気恥ずかしくも防御力の高い衣装が装着される。更に昨日買った厚手の黒いコートを手渡された。
「上空は寒いかもしれませんからね。これはアイテムボックスに入れていつでも着れるようにしておいて下さい。体調を崩されては大変ですから」
「ありがとう、準備しておくよ」
ルナフレアの心遣いが身に染みる。昨日季節外れのコートを買ったのはこういう理由だったのだと理解できた。
「それとお弁当です。休憩する時にでも食べて下さいね」
ずっしりと重いサンドイッチの包みを渡される。「ありがとう」と言ってそれもアイテムボックスの中に仕舞い込む。
「じゃあ行ってくるよ。なるべく早く帰って来るようにするから」
「はい、お待ちしています。と、その前に……」
ルナフレアがカリナの右手を取って、左手を重ね合わせる。二人の手が淡く輝き、光の粒子がカリナの右手の甲にある紋章へと収束されていった。
「加護の更新です。何があるかわかりませんから」
「ありがとう。安心感が増した気がする。じゃあ行ってきます」
カリナはそう言って自室の扉を内側から開けて駆けていった。
「どうか、何事も起こりませんように……」
ルナフレアはそう言って両手を組んで祈りながら、カリナの小さな背中が見えなくなるまで見送った。
城内を通り抜けて城門を開ける。そこにはカシューと側近のアステリオン、近衛騎士団隊長のクラウス、戦車隊隊長のガレオス、エクリアとその代行のレミリア、そして王国騎士団副団長のライアンが、カリナが来るのを待っていた。
「これは、こんな朝早くから私の見送りのために集まってくれたのか?」
「そういうことだ、カリナよ。其方からの朗報を期待している」
国王のロールプレイで威厳たっぷりに話しかけるカシューに、思わず笑みがこぼれる。
「私もサティアの安否は気になるから、よろしくねカリナ。良い知らせを待ってるわ」
エクリアは人前では完璧な淑女を演じている。その余りの豹変振りにカリナは大笑いしそうになったが、皆の手前ぐっと堪えた。
「我々もカリナ様の安全を祈っております」
すっかり丸くなったクラウスが礼儀正しく敬礼する。最初に出会ったときの敵意剥き出しの態度とは全く違う様子に毒気を抜かれる。その後もそれぞれから激励の声を掛けられると、カリナは東の地、ルミナス聖光国へ向けて出発するためにペガサスを召喚した。
「じゃあ行ってくるよ。何かあれば通信機で連絡は入れるようにするから。それじゃ」
ペガサスに跨ると、その純白の翼が大きく広げられ、力強くはためき始めた。ふわりと地上から離れると、上空で旋回し、かなりの速度でペガサスは空を駆けて行った。
「さて、無事にサティアが見つかるといいんだが……」
「どうか致しましたか、陛下?」
カシューの独り言のような呟きにアステリオンが反応した。
「ここ最近の各国の情勢を各地にいる諜報員に報告させているが、悪魔共が陰で色々と動きを見せている可能性がある。五大国でも何かしらの影響はあるかもしれないということだな」
「確かに最近の悪魔の目撃例は多いですからね。聖光国に何事もなければいいのですが……」
一行の心配をよそに、カリナはペガサスと空の旅を楽しんでいた。
◆◆◆ 眼下にはエデン周辺の街並みが模型のように広がっている。そして更に東に行った先にある平原は、地形が抉れて至る所にクレーターの様なものが出来上がっていた。ここには魔物討伐にエクリアの部隊が出陣していたはずである。荒れた大地を見下ろしながら、やはりエクリアは「災害」級の魔法使いなのだと改めて実感し、苦笑する。ペガサスが更に高度を上げると、上空はやはり冷え込んできた。頬を撫でる風が冷たい。ルナフレアから渡されたコートを取り出して身に付けると、ふわりとした温もりに包まれ、幾分かはマシになった。
「やはり上空を飛ぶときは体温管理が大切になってくるな」
聖光国まではまだ数日の距離がある。適度に休息を取って進まないと参ってしまう可能性がある。それにペガサスの体力も問題になってくる。如何に召喚体とはいえ、長時間の飛行による疲労は蓄積する。カリナは2、3時間に一度は地上に降りて休憩を取るように心掛けた。
眼下に中規模の街が見えた時には、そこに立ち寄って休むことにした。日が暮れて来たときに、丁度良い規模の街が見えた。今日はここで休むことにしようと思い、ペガサスを降下させる。そして街の広場のような場所に降りると、ペガサスに「また頼むぞ」と言って召喚解除した。
光の粒子となって送還されていくペガサスと、それに乗って空から降りてきた美少女を見て、広場にいた街の住民達は騒然となった。
「しまった、街の手前で降りるべきだった」
迂闊なことをしてしまったと思ったが後の祭りである。カリナの周りに興味津々の住民達がわらわらと集まってくる。
「おい見ろよ! あのお嬢ちゃん、ペガサスに乗って来たぞ!」
「高位の召喚獣じゃないか、まだそんなものを扱える召喚士がいたんだな……」
「なんと美しい……空から舞い降りた天使か?」
物珍しさと畏敬の念が入り混じった視線で囲まれ、わいわいと話しかけられる。それほどまでに今の召喚士は数が少ないのかと、カリナは少ししょんぼりとしてしまった。
「いかにも私は召喚士だ。今日はこの街で宿を取ろうと思ってね。どこかに良い宿がないか紹介してはくれないだろうか?」
マップ機能を展開すると、ここは『チェスター』という中堅冒険者が集まる街だとわかった。かつては自分もこの辺りでレベリングしていたので、地名くらいは知っている。だが100年の時が流れている訳だし、自分が知っているVAOとは別物だと考えるようにしている。
ゲーム時代には召喚獣に乗ることなど、地上を走るユニコーンくらいしかできなかった。上空から見下ろすことなどなかったので、到着するまではここが何処なのかはわからなかったのである。
「それなら街の南にここいらじゃ一番立派な宿屋があるぜ。『鹿の角亭』っていう飲食店と一緒になっている店だ。そこは料理も美味いから行ってみるといい」
「ありがとう、行ってみるとするよ」
親切な住人から情報を聞くと、カリナは人混みを抜け出して歩き始めた。
昼間はルナフレアから渡されていた弁当を休憩がてらに食べただけだったので、この時間になるとさすがに空腹が酷くなっていた。更に長時間ペガサスに跨っていたのでお尻が痛い。明日はもっと乗り心地の良い召喚体を呼ぶべきかと考えていたところに、後ろから誰かがぶつかって来たので、体重の軽いカリナは前につんのめって転んだ。
「痛たた……。誰だよ急に突っ込んで来たのは」
身体を起こして振り返るとそこには小さな子供が一人、前のめりに倒れていた。この子がぶつかって来たのだろう。カリナは一瞬スリか何かかもしれないと警戒したが、その子供が必死な顔で泣いていることに気付いて、その線はないと考えを変えた。立ち上がってから手を引いて起こしてやる。
「どうした少年? 何か急ぎの用事か?」
「あ、あううう……」
「男がそんなに泣くんじゃない。何があったのか話してみろ」
泣き止んだ黒髪の少年は、カリナの首から掛けられているギルドの冒険者章タグを見ると、袖で涙を拭いて話し始めた。
「お姉ちゃんひょっとして冒険者?」
「ああ、私はカリナというBランクの冒険者だよ。それでどうした? 何があった?」
「お父さんとお母さんが帰って来ないんだ。近くの『死者の迷宮』に行ったきり……。もう3日も経つのに……」
「死者の迷宮か……。あそこはアンデッドがウヨウヨしている中級難易度のダンジョンだったな」
「うん、だから連れて行ってくれる冒険者を探していたんだけど……」
そうやって少年と話している四と、その後ろから四人組の冒険者パーティーらしき者達が走ってやって来た。
「はぁ、はぁ……ようやく追いついたわ」
明らかにこの少年を追いかけてやって来たと四思われる四人組から少年を自分の後ろに隠し、カリナは警戒の眼差しを向けた。
「何だお前達は? ひょっとして人攫いか?」
カリナの鋭い視線に射抜かれて、四人組は慌てて「違う違う」と手を振って弁明した。
「じゃあ何の用がある? この少年を追って来た理由は?」
「その子が『死者の迷宮』に一緒に行ってくれる冒険者を探してたのよ、ギルド組合でね。でも誰も取り合ってくれなかったみたいで……。『それなら独りでも行く』って言って飛び出して行ったものだから、私達は心配になって追いかけて来たって訳」
最初に声を掛けて来た軽装の女戦士がそう説明した。耳が長く尖っている。彼女はエルフだろう。
「そういうことだ。だから俺達は人攫いとかそんなんじゃない」
巨大な戦斧を背中に背負った重戦士風の男も弁明する。
「何だ、そういうことだったのか。ではお前達がこの子を迷宮に連れて行くつもりなのか?」
「いや、さすがにこんな子供を連れてダンジョンに潜る訳にはいかないからな、俺達が代わりに行くから待ってろって言おうとしたんだけど逃げられちまって……」
この青年の装備からしてシーフやスカウトだろう。敏捷性に優れ、ダンジョン内での罠探知や宝箱のトラップ解除に長けているクラスである。
「そうか、だったら私がこの子を連れてダンジョンに行くよ。ちゃんと守ってやれば問題はないだろう?」
カリナには鉄壁の守備力を持つ召喚体のホーリーナイトがいる。それに守らせれば少年の護衛など造作もない。
「ええっ? でもあなたが? まだ小さいのにそんなことができるの?」
最後に魔法使い風の青いローブを纏った女性が驚きの声を上げる。確かに見た目からしてカリナはまだ幼さが残るファンシーな衣装を着た少女にしか見えないからである。
「できるとも。私の召喚術に不可能はほとんどない」
そう言ってカリナはそこそこの大きさの胸を張った。
「そこは『ない』じゃないのね……」
エルフの女性戦士が呆れたようにツッコミを入れる。
「それはそうだろう。全てのことに完璧に対応できる人間なんていない。そんなことができるのは神だけだ。だからほとんどないと言ったんだ」
「でも召喚術だろ? 俺は召喚士をまともに見たことがないんだが、大丈夫なのか?」
ここでもまた召喚士は不遇扱いなのかと、カリナはうんざりした。ならば実力を見せるまでだと、左手の人差し指を軽く捻っただけで瞬時にシャドウナイトを呼び出し、その大剣の切っ先を軽口を叩いたシーフ風の男の首筋にピタリと突き付けた。
「なっ?! いつの間に? 何て速さの召喚なんだ……」
「これでもまだ当てにならないか?」
黒騎士を送還してからカリナは不敵に笑ってそう言った。
「い、いや、今ので十分だ。お嬢ちゃんが凄腕の召喚士であることは理解できた」
重戦士の男が冷や汗を拭いながら、素直にカリナの召喚術の凄さを認めた。
「それに私自身魔法剣士で格闘術の使い手でもある。多少の魔物程度なら召喚術を使うまでもない」
「わかったわ。ならもう止めない。でも私達も心配だから同行させてもらうわ。それでもいいかしら?」
そのくらいは構わないだろうと思ったカリナは快く承諾した。
「で、少年。お前の名前は何というんだ?」
ずっとカリナの後ろに隠れていた男の子は、強力な協力者ができたことに安心して前に出た。
「僕はヤコフと言います。お父さんは剣士でジェラール、お母さんは僧侶でクリアです」
「その二人なら組合でも指折りの実力者じゃないの! そんな二人が帰って来ないとなるとさすがに何か起きたとしか考えられない……」
魔法使いの女性が深刻そうにそんなことを言った。カリナはここにも悪魔の影響が及んでいるのかもしれないと考えた。それならば猶更自分が赴く必要がある。
「わかった。だが今日はもう遅い。夜中にダンジョンに入るなど普通に自殺行為だ。宿を紹介してもらったし、そこでは飲食もできるらしい。そこでお互い自己紹介とでもいこう。ヤコフもそれでいいか?」
「うん、ありがとうカリナお姉ちゃん」
「街の人が紹介するくらいの飲食できる宿屋なら『鹿の角亭』ね? 賑わって席がなくなる前にさっさと行きましょう」
エルフの女性はそう言って、カリナを案内するために先陣を切って歩き始めた。
ザルバディオ・カルマの消滅により、再び静寂が戻ったコロシアム。だが、それは恐怖による沈黙ではない。偉大なる勝利と、平和の到来を噛みしめる安堵の静寂だった。 舞台上の瓦礫が片付けられ、表彰式の準備が整う中、実況席から一人の女性が軽やかな足取りでレオン王の下へと駆け寄った。 実況のマグダレナだ。遠目には分からなかったが、間近で見る彼女の容姿は、自ら看板娘を名乗るに相応しい華やかさを持っていた。 艶やかなエメラルドグリーンのロングヘアが背中で揺れ、その肢体はイベントを意識した大胆な衣装に包まれている。身体のラインを強調する光沢のある黒いバニースーツに、引き締まった脚線美を際立たせる網タイツ、そして黒いハイヒール。 彼女は愛嬌たっぷりの笑顔で、魔法で増幅されたマイクを差し出した。「陛下! 会場のみんなに声が届くよう、これを使って下さい!」 レオン王は目を丸くし、豪快に笑った。「おお、これは気が利かなかったな。感謝するぞ、マグダレナ」 王はマイクを受け取ると、威厳に満ちた声を会場中に響かせた。「これより! アレキサンド剣術大会、表彰式を開始する!!」 王の宣言と共に、観客席からは割れんばかりの拍手が巻き起こった。舞台中央。真紅の戦装束、バトルドレスに身を包んだアリアと、泥だらけになりながらも凛と立つカリナは王の前に進み出ると、恭しく片膝をつき、その言葉を待つ。 レオン王はまず、アリアへと視線を向けた。「先ずは女神アリア殿。その凄まじい強さと、最後に見せた悪魔退治……感謝してもしきれぬ働きであった。この国を、いや、世界を救ったと言っても過言ではない」 王は近衛兵が捧げ持っていた、豪奢な装飾が施された一振りの剣を手に取る。「優勝の約束として、かつてこの国の英雄が使っていた『聖剣ジュノワーズ』を授与する。受け取られよ」 アリアは立ち上がり、その美しい剣を受け取った。だが、その表情に高ぶりはなく、あくまで涼しげだ。「私は女神として、当然のことをしただけですよ。それに、この大会に出たのも、悪に立ち向かえる力のある人間がどの程度なのかを見定めるためでしたから」 悪びれもせず言い放つアリアに、レオン王は一瞬言葉に詰まり、苦笑する。「そ、そうか……。だが、この国を救ってくれたことは紛れもない事実。深く感謝する」 王が深々と頭を下げると、アリアはに
熱狂と興奮がピークに達した決勝戦。だが、その余韻を無惨に切り裂くように、禍々しい闇が舞台を侵食した。『な……何が起こっているのでしょうか!? 決勝戦が終わった舞台に、突如として黒い影が……!』 マグダレナの悲鳴のような実況が響く。観客達もパニックに陥り、悲鳴を上げて逃げ惑う者、恐怖で腰を抜かし立ち尽くす者で会場は瞬く間に混沌と化した。「悪魔だ……! 本物の悪魔が出たぞ!」「逃げろ! 魂を喰われるぞ!」 その混乱の中、解説席のレオン王が立ち上がり、声を張り上げた。『うろたえるな! 皆の者、落ち着け! まさか悪魔が直接乗り込んで来るとは……! だが、近衛騎士団、すぐに観客の避難誘導を! 決してパニックになるな!』 王の必死の呼びかけも、圧倒的な恐怖の前では力を持たない。カリナ達の貴賓席も騒然となっていた。「あれが……、災禍六公……?! エデンを襲撃した悪魔の一味よ!」 カグラが目を見開き、震える声で叫ぶ。彼女の脳裏には、カシューから聞いた情報が警鐘のごとく響いていた。エデンを襲撃した悪魔の一味。エクリアが禁呪レベルの破壊魔法で消滅させたと聞いた一体。それと同じレベルの存在が現れたのだ。 以前ガリフロンド公国で死闘を繰り広げた災禍伯メリグッシュ・ロバス。目の前の悪魔が放つプレッシャーは、その怪物に勝るとも劣らない。そんな絶望的な存在が、なぜこんな場所に現れたのか。カグラは戦慄を抑えきれなかった。「とんでもない力を感じるぞ……あの悪魔は……」 カーセルが顔を青ざめさせ、剣の柄に手をかけるが、その手は震えている。カインも歯を食いしばった。「おいおい、冗談だろ……? あんなのが幹部クラスだってのかよ……」「空気が……重い。息をするだけで肺が焼けるみたいだわ」 ユナが胸元を押さえて苦しげに呻く。テレサも怯えたように身をすくませた。「あんな禍々しい気配……初めてです……」 エリック達の席でも、同様の動揺が走っていた。「まさか、こんなところにまで単身で乗り込んでくるとはな……! 正気じゃねえ!」 エリックが脂汗を流す。隣のディードが耳を押さえてうずくまる。「嫌な音……。世界が悲鳴を上げている音がする……」 「団長……あいつ、私達とは次元が違い過ぎます……!」 テレジアも絶望的な表情で首を振った。 舞台中央。闇の中から
熱狂と興奮が飽和するコロシアム。 準決勝第二試合の衝撃的な決着から一息つき、休憩終了の鐘が高らかに鳴り響いた。 魔法マイクを握りしめたマグダレナが、震える声で告げる。『さあ、皆様! いよいよ、この大会のクライマックス! 決勝戦の幕が開きます! これまで無傷で勝ち上がって来た両者が、ついに激突します! 一体どんな戦いになるのか、私の実況では言葉が追いつかないかもしれません!』 解説席のレオン王も、深く頷きながら前を見据えた。『うむ。英雄と謎の女神……今ここアレキサンドで今、最も注目される二人の激突だ。決勝に相応しい、最高のカードと言えるだろう』 カリナ達がいる貴賓席。カリナが静かに立ち上がった。その背中を、カグラがぎゅっと抱きしめる。「カリナちゃん……気を付けてね。でも、あの余裕ぶっこいた女神の顔色、変えてきてやりなさいよ!」 「ああ。ここまで来たら、全力でぶつかるだけだ。ありがとう、カグラ」 カリナはカグラの手を握り返し、仲間達の顔を見渡した。 エリアが拳を突き上げる。「行けーっ! カリナちゃん! 私たちの分まで!」「おう! 頼んだぜ!」「カリナ嬢ちゃん、武運を」「カリナちゃん、頑張って下さい!」 ロック、アベル、セレナの声援。更にルミナスアークナイツの面々も声を張り上げる。「カリナちゃん! 僕達も全力で応援するからね!」「負けんじゃねーぞ! カリナちゃん!」「カリナちゃん、ファイト!」「頑張って下さい、カリナさん!」 カーセル、カイン、ユナ、テレサ。そしてケット・シー隊員も「隊長、応援するにゃー!」と叫んでいる。カリナは彼らに力強く手を振って応え、舞台へ足を進めた。 一方、アリアがいる貴賓席。アリアは優雅に髪をかき上げた。「ようやく決勝ですか。さて、カリナさんがどうくるのか、楽しみですねぇ」 余裕の笑みを浮かべ、彼女もまた舞台へと向かう。その様子を、エリック達が見送っていた。「……いよいよだな」「ええ。カリナさんの剣が、あの方に届くのか……見ものです」「人間離れした戦いになるでしょうね」 エリック、テレジア、ディード。彼らもまた、固唾を飲んでこの一戦を見守ろうとしていた。 二人の戦士が、まばゆい陽光の下へと現れる。『まずは、エデンが誇る特記戦力にして、ザラーの街を救った可憐な戦乙女! 召喚魔法剣士、カリナァァァーッ!
熱い興奮が渦巻くコロシアム。 準決勝第一試合の余韻が残る中、実況のマグダレナが魔法マイクを握り直し、高らかに声を張り上げた。『さあ、息つく暇もありません! 続いて行われるのは準決勝、第二試合! 決勝でカリナ選手と戦うのは、果たしてどちらの選手になるのでしょうか!』 エリック達が陣取る貴賓席。出番を控えたテレジアが、静かに愛剣の点検を終えて立ち上がった。その背中に、先ほど敗れたばかりの団長、エリックが声をかける。「テレジア、行けるか?」 「ええ、団長。……敵討ち、とはいかないかもしれませんが」 「バカが、俺のことはいい。それより……あいつは得体が知れない。気を付けろよ」 エリックの表情は真剣そのものだった。長年の勘が、対戦相手であるアリアの異常性を警告しているのだ。「ええ、分かっています。これまでも全て一撃、それも目にも止まらぬ速さで試合を決めて来た異常な存在……。心して、行ってきます」 テレジアは凛とした表情で頷き、扉を開けて舞台へと向かった。 一方、アリアが陣取る貴賓席。アリアは軽く屈伸をし、伸びをしていた。「んーっ……。さてと。今回は純粋に剣技のみでやりましょうかね」 彼女は誰に聞かせるでもなく独りごち、楽しそうに笑みを浮かべて舞台へと歩みを進める。『まずは、予選からここまで、全ての試合を一撃のもとに決着させてきた謎の美女! 自ら女神を名乗るアリア! その真紅の装備に、今度こそダメージが入ることはあるのでしょうかーっ!?』 観客の視線が一斉に注がれる中、アリアが優雅に手を振って登場する。その余裕綽々とした態度は、これから死闘に赴く戦士のそれではない。まるで庭の散歩にでも来たかのようだ。『対するは、先程のエリック選手と同じ、武大国アーシェラのAランクギルド『ドラゴンベイン・オーダー』所属! 氷の魔法剣士、テレジアァァッ!!』 対面から、一陣の涼やかな風と共にテレジアが現れる。 淡い水色のセミロングヘアが風に揺れ、氷のような青銀のライトアーマーが陽光を反射して輝く。青い膝丈のスカートと白いブーツが、彼女の可憐さと剣士としての凛々しさを引き立てていた。 その長い耳と整った顔立ちは、彼女が高貴なエルフであることを示している。腰には、細身のレイピアに近い片手剣が帯びられている。 解説席のレオン王が頷いた。『うむ。剛剣のエ
準決勝を控えた休憩時間。貴賓席は、先ほどの熱戦の余韻と、次なる戦いへの期待に満ちていた。中央のテーブルを囲むように、シルバーウイングとルミナスアークナイツの面々が集まっている。「ここからは、カリナちゃんを一生懸命応援するよ! みんな!」 敗退したばかりのエリアが、真っ先に声を上げた。その表情に暗さはなく、親友の背中を押す決意に満ちている。ロックがいつまでも食べているサンドイッチを握り拳で掲げた。「もちろんだ! がんばれよカリナちゃん! エリアの分まで頼んだぜ!」「うむ、健闘を祈る。相手は未知数の強敵だが、カリナ嬢ちゃんなら大丈夫だろう」 アベルも深く頷き、どっしりとした声でエールを送る。テレサは、どこか夢見心地な様子で頬を紅潮させていた。「はぁ……カリナちゃんの戦いに集中できるなんて……眼福です。あの流麗な魔法剣技、一瞬たりとも見逃せません」「そうだね。僕達も一生懸命応援するよ。カリナちゃんの勝利を信じてる」 カーセルが穏やかに微笑む。カインはニカっと笑い、背負った槍の柄を叩いた。「まあ、カリナちゃんが負けるところなんて想像がつかねーけどな!」「でも、油断は禁物よ。あの大剣使いも中々やり手っぽいわ」 ユナが少し真剣な顔つきで釘を刺す。テレサも頷き、言葉を継いだ。「そうですね。それでも、カリナさんが勝つところを見たいです。私達の希望ですから」「隊長が負けるわけがないのにゃ! 最強なのにゃ!」 足元でケット・シー隊員が胸を張り、ふんすと鼻を鳴らす。カリナは仲間達の温かい言葉に目を細め、力強く頷いた。「みんなありがとう。ベストを尽くすよ」 その時、カグラがそっとカリナに近づき、周囲に聞こえないよう小声で囁いた。「……相手がもし『PC』なら油断はできないわ。最初から思いっきりやってやりなさいよ、カリナちゃん」「ああ、油断はしないよ。一合打ち合えば、それだけでわかるだろうさ」 カリナは静かに闘志を研ぎ澄ませる。相手が自分と同じ領域にいる存在かもしれないという予感が、心地良い緊張感となって全身を巡っていた。 やがて、休憩終了を告げる鐘が高らかに鳴り響いた。『それでは、準決勝第一試合を開始いたします!』 マグダレナの声が会場の空気を引き締める。二人の戦士が、それぞれの貴賓席から舞台へと向かう。『まずは、エデンが誇る美少女召喚魔法剣
休憩時間。カリナ達がいる貴賓席では、和やかなティータイムが始まっていた。「次はカリナちゃんとの戦いかー。……やっとだね」 大会スタッフが用意した紅茶を一口飲み、エリアが不敵な笑みを浮かべる。その瞳は、親愛なる友に向ける優しさと、一人の剣士としての闘争心が入り混じっていた。「ああ。楽しみだな、エリア」 カリナもまた、カップを置いて微笑む。言葉数は少ないが、その瞳の奥には静かな炎が燃えている。 そんな二人を見て、カグラが胸を張った。「ふふっ、覚悟しなさいよエリアちゃん。私の妹分は強いわよー?」 「それはもちろん知ってますよ、カグラさん。ずっと間近で見て来ましたからね」 エリアはニッと白い歯を見せる。「でも、勝つ気でいきます! カリナちゃんが強いのは百も承知。だけど、私もシルバーウイングの副団長として、簡単に負けるわけにはいかないのよ!」 「おう、威勢がいいこった! まあ、一太刀入れられたら十分だと思ってるけどな!」 ロックがサンドイッチを頬張りながら茶化すと、アベルも深く頷いた。「ああ。あのカリナ嬢ちゃんだ。勝つのは至難の業だろう」 「エリア、貴方の剣技の冴えならいい勝負になると思いますが、カリナちゃんのあの冷徹なまでの先読み……あれを崩せるかどうかですね」 セレナが頬を紅潮させながら、どこか楽しげに分析する。「もうっ! アンタ達、同じギルドメンバーなのに酷いわね!」 エリアが頬を膨らませると、全員がどっと笑った。その温かい笑い声に、ルミナスアークナイツの面々も加わる。「はは……僕もカリナちゃんには手も足も出なかったけど、エリアさんには期待してるよ」 カーセルが苦笑交じりにエールを送る。「そうよエリアちゃん! カリナちゃんは強過ぎるからね。一太刀入れれば実質勝ちみたいなものよ!」 「ああ。あの反応速度と技のキレは異常だ。エリア、気合入れてけよ!」 ユナとカインも、カリナの強さを認めた上でエリアを鼓舞する。テレサは穏やかに微笑み、二人を見比べた。「でも、勝負は時の運もありますから。どちらが勝つにせよ、素晴らしい試合を期待してます」 「ありがとう、テレサの言う通りだな」 カリナとエリアは顔を見合わせ、頷き合った。 ◆◆◆ 休憩終了の鐘が鳴り響く。『さあ皆様、長らくお待たせいたしました! これより三回戦、準々決勝の第一
ヒースの部屋を出てロビーに戻ると、そこは殺気立った空気に包まれていた。 負傷している者、装備を点検して飛び出していく者。怒号と悲鳴が飛び交う中、数人の冒険者が地図を囲んで深刻な顔で話し合っているのが耳に入った。「南西の防衛線が危ない! 急造の砦を築いて凌いでいるが、魔物の数が多すぎる!」 「正規軍の騎士団も限界だ。このままじゃザラーまで雪崩れ込んでくるぞ!」 彼らの会話を聞いたカリナは、迷わず彼らの元へと歩み寄った。「その南西の砦、私が加勢に行こう」 凛とした声に、冒険者達が振り返る。だが、彼らの目に映ったのは、フリルたっぷりの緑のドレスコートを着た、深窓の令嬢のような美少女と、二
聖衣が解除され、フロストリアが光の粒子となって消えた後もしばらくの間、騎士団演習場は静寂に包まれていた。 誰もが言葉を失っていたのだ。精霊の女王という伝説的な存在を、力と格でねじ伏せた事実。そして最後に放たれた、戦車の砲撃すら耐えうる「白銀鉱」の的すら粉砕する一撃。 パチパチパチ…… 最初に拍手を送ったのは、観客席から降りてきたカシューだった。それを合図に、堰を切ったように割れんばかりの歓声と拍手が演習場に響き渡った。「見事だったよ、カリナ。まさかあの精霊女王をこうもあっさりと従えるとはね」 カシューが歩み寄り、友としての顔で笑いかける。「あっさりじゃないさ。魔
カーテンの隙間から差し込む朝日が、瞼を焼く。カリナは重い瞼を擦りながら、ゆっくりと身体を起こした。「ふあ……。よく寝たな……」 大きく伸びをすると、ふくらはぎと足首に鈍い痛みが走った。昨日のパーティでの無理が祟ったらしい。あの殺人的な高さのピンヒールで数時間、セラフィナに連れ回された代償は大きかった。王城で一緒に寝ることまでせがまれたが、何とか逃げ出して、宿に戻ったのだ。 脳裏に浮かぶのは、煌びやかな王城の光景と、美味しいスイーツ、そして「妹」と呼んで離さなかった天真爛漫な王女の笑顔。なんだか夢のような、それでいて嵐のような一日だった。悪魔との死闘よりも、昨日のパーティの方がよほど精
「そろそろ彼らは遺跡の悪魔と遭遇した頃でしょうか?」 ルミナス聖光国教会。女神像の前で祈りを捧げる一人のシスターが、遠い戦場に想いを馳せて呟いた。「そうかもしれぬな。先程から街を包む空気が重く淀んでいる。……お迷いですか、サティア様」 問いかけに答えたのは、神父長のマシューだ。長い髭を蓄えた威厳ある老人だが、彼はまるで母に接するかのように、変わらぬ敬意を込めて「様」をつける。100年もの間、姿を変えずにこの街を見守り続けてきたPC、サティア。老いることのない奇跡の存在。この世界の住人には、彼女は生ける伝説として映っていた。「ええ……。カリナさんは強い人です。私などがいなくても、きっと







